2008年11月21日金曜日

たけはし君のこと。

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「よくコドモのお菓子なんかで、シールを集めてはがきで応募すると、抽選でおもちゃをくれるようなのがあるでしょう」
とたけはし君がいった。

この人がさ、なんと悦子さんの同級生なんだって。

「あれをね、一枚一枚読んでデータに打ち込んだり、抽選したり、時には返事を書いたりする仕事をしてる人が必ずいるわけですよね」
「返事は書かないかもしれないけどね」と悦子さんが言った。
「うん。でもいいじゃない、書いてるかもしれないでしょ」
「うん」と悦子さん。

で、そういう人に私はなりたいなのかな、とイタチは思った。
「で、そういう人に逢ったんですよ、昨日」
とたけはし君が言った。

「へえ」とイタチは言った。
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2008年11月19日水曜日

ぐーぐるすとりーとびゅー。

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ぐーぐるすとりーとびゅーは、墓地の中へ入ることはできない。せっかくパリへ行っても、ショパンの墓を見ることはできない。

ぐーぐるすとりーとびゅーは、野球場の中へ入ることはできない。そこを通りすがることはできる。街路に、美しい葉が揺れている。

ぐーぐるすとりーとびゅーは、列車の車窓からの風景を見せてはくれない。

ぐーぐるすとりーとびゅーは、埠頭から海を望むことはできない。

それでもその街を歩いたような気になれる。

「なるほど」とイタチは言った。
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2008年11月18日火曜日

チャーター機にのって。

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「またフライトですか、たいへんですね」と一人が言った。
「いや、そんなことはないですよ」ともう一人は言うのだった。その飛行機は、コンピュータ上に地図を作成するために、GPSを使って地球の表面の画像を撮影し続けている。「僕なんか、寝てたっていいんです」
相手はちょっと驚いて言った。
「そうなんですか? だっていろいろ仕事がありそうだし、操縦だってあるんでしょう?」
「自動操縦だし、仕事なんかあるといえばあるし、ないといえばないんです。そのうちに勝手に飛ばして、勝手に撮影してこれるようになると僕は思う」
「そうしたらどうするんですか?」
「また新しいことを考えます」
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2008年11月17日月曜日

あと5分。

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ブログというのはどこまでも断片なんだろうか。断片なのは悪くない。今日はなんだかすごく紆余曲折して、七転八倒して、うっかり自分を悪くいいかねない感じで、それでやっとともかくその「断片なのは悪くない」というところへ追いついたのだ。生産工学みたいなジャンルが、ひょっとするとあるのかもしれない。そこではよくできた生産ラインに牛乳パックみたいのが1時間に6万本できますみたいに次々と送られてくるみたいな気もするんだけど。
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2008年11月16日日曜日

雨の公園

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図書館の裏に、小さな林があって、その向こうに人が拵えた川の流れがひとすじ。東屋があって、その周りにうす緑色の丘があって、ちょっとした植木が栽培中だったりする。
「これはさ、あれに似てるね」
「あれって?」
「動物園だよ」
「動物園?」
「動物園あるじゃない、これによく似てる」
「でも……」
「似てるよ、そっくりじゃない」
「でもあれは公園でさ、とっても公園らしいよ。だからさ、」
「でも動物園に似てるでしょ」
「動物園が公園に似てるのかもしれないし、公園が動物園に似てるのかもしれないんだ」
「なるほど」
私たちは、これから動物たちのうようよしてる講演会というものに行こうとしていた。会場である図書館に、あと15歩ぐらいで着くところだった。
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2008年11月15日土曜日

ポートレートとランドスケープ。

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そのテーブルには、おじさんと高校生ぐらいの女の子──たぶん親子だと思う──が向かい合って掛けていた。イタチはいつものように、右手にダスターを持って、グリーンのエプロンをして、2階に立っていた。おじさんと女の子のテーブルはすぐそばだ。

「写真の縦が長いのをポートレート、横が長いのをランドスケープっていうんだよ」
「ポートレートって?」
「人物画って意味かな」
「ふうん。ランドスケープって?」
「風景画だよ」
「ああ、そうか」
「そうなんだよ。ずいぶん決めてかかるように思うじゃないか」
「何が?」
「縦長だと人物画で、横長だと風景画だなんて」
「縦長の風景画はどうするの?」
「おとうさんもそう思う」
「縦長とか横長とか名前を付けたり言ったりしなくても伝わるようになればいいんじゃない?」
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2008年11月14日金曜日

水車小屋の交替

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私は初めてだったので、仕事の説明を受けてから、仕事をするようにと言われていた。
「この水車は、時計を巻くのに使っているんです」と前任者は言った。「ま、説明は5分もかからないですよ。どうぞ」と言って、椅子を勧めた。

「水車に沿って、観覧車みたいに、バスケットがついています。このうち赤いのが机のところへ来たら、分銅をひとつ入れてください。これで時計は10巻したことになります」
「なるほど」
「分銅が7つになったら時計を外して、次に赤いのが机のところへ来るまでに、時計をセットしてください」
「わかりました」
「かんたんでしょ」
「そうですね」
「では私は帰ります」
「お疲れ様」
「さようなら」

前任者がドアを開けると冷気とともに風の音がわっと流れ込んできて、落ち着かないうちに、彼は去ってしまった。あとには静寂。「かんたんでしょ」「そうですね」「分銅をひとつ」「机のところへ来るまでにね」……。

さてと、次の交替が来るまでに、あと8時間ある。
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2008年11月13日木曜日

イタチのスケート靴

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イタチは、スケートに行くことになっていた。アルバイトの悦子さんの誘いで、生まれて初めて、スケートへ行くことになったのだ。

「スケート靴は借りればいいのよ」と悦子さんは言った。
「でも足がちょっと形が違うので」とイタチは言った。
「大丈夫」と悦子さんは言うのだった。「私が借りてあげるから」

さようならば、とイタチは行くことにした。

ところがさあ行こうという日の2日前に、いつものようにグリーンのエプロンをしたイタチは、右手にダスターを持ち、フロアに立っていて、突然──くしょん!とくしゃみをした。それから夕方へかけてくしゃみがひどくなり、翌日はついに途中から早退することになった。熱が高くなりはじめていたのだ。

「これはスケートは無理みたい」と悦子さんは言った。「だってすごい熱だもの」
イタチは苦しそうに、困った顔をした。
「しょうがないわね、また今度にしましょう」

そのようにしてスケートへ行く話は流れてしまったのだった。
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2008年11月12日水曜日

ジェットコースター

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ある日、イタチはジェットコースターに乗った。それはどちらかというとジェットコースターというよりもウォーターシューターというべき代物で、彼らも多少は遠慮してか「ウォータージェット」と呼んでいるのだった。

イタチはミニタオルをポケットにしまい、手際よく乗客のシートベルトを確認していく係員のおにいさんに、その白い腹を軽くにらまれ、発車ベルとともに、水面のほうへ落下していったのだった。

風景がどんどん近づいていき、機体がついに着水すると、水が跳ね上がってトンネルのようにもりあがる。まあ、言ってみればそれだけのアトラクションというわけだ。

イタチは少しも怖くなかった。
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2008年11月11日火曜日

マルチカラー・フィッシュ

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にぎやかなおばさんたちは3人連れだった。
「メバルを買ってきたんですよ」
「アカの?」
「シロの?」
「それともクロ?」
「そんなの知りませんよ。あ、いや、シロです、シロ」
「そう、それはよかったわ」
「でもね、私も思っていたんですよ、メバルって何色かなって答えられないじゃないですか」
「そうね」
「だからそういう魚なんだなって、思ってたんですよ」
「これまではね」
「ええそう、これまでは」
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