2010年5月17日月曜日

耳の診察

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がらんとして広い診察室は、ドラマのセットの中に、パソコンが一台のっている事務机をひとつだけ持ち込んだものの、いつのまにかそれが定着してしまって、そのパソコンだけがカタカタと働いているような空間だった。

大きな病院の先生は、多少予想はしていたのだけれども、とっても若い先生だった。
「症状はいつごろからですか?」
イタチは考え考え答えたのだけれども、質問の内容は近所の耳鼻科の老先生と同じだし、それについては老先生がたっぴつな文字で、欄を埋め尽くすほどびっしりと書き込んであるはずだ。

たとえば老先生はこんなことも、ついでに、という感じに一筆に書き込んでいた──
「ネコの鳴き声がへんにきこえる」

「というわけで、そこに書いてあるとおりなんですけど」
イタチは、なんだか自分が言っていることが、若い先生が今読んでいる紹介状に書いてることと、だんだん違うような気がしてきて、そう言った。

「では検査しましょう」
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