2008年11月6日木曜日

冬がやってくる。

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冬なんて言ったって、店の中にいるぶんにはどおってことないし、とイタチは思っていた。丈の短いウールのコートを着た人が、えりを立てて店の中へ入ってきたり、派手な色のストールで首のまわりがぐるぐる巻きになっている人がホットのストレートコーヒーを飲んでいるのを見たりすると、確かに寒いんだろうなと思うけれども、そうは言っても雪の野山にいるわけじゃあるまいし、とイタチは思っていたのだ。

だが、何年かすると、そうは思わなくなった。寒い日にマフラーをすると暖かい、とイタチは思った。手ぶくろをするとツメの先が冷えない、ということも知った。

冬って寒いなあ、とイタチは毎年思う。

「慣れってもんですよ」と誰かが言う。だがイタチが後ろを振り返ってみると、そこには誰もいないのだ。
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