2008年11月1日土曜日

本を聴く。2

space
その日は、2人が店でイヤホンをしてiPodを聴いており、しかし、そこから出る音は、イタチにはよく聞こえなかった。店内は混んでおり、むわっとしたノイズに包まれていた。

イタチも、グリーンのエプロンをしたスタッフとして、そこそこ忙しかった。でも机を拭いたり、椅子を直したり、食器を片付けたりしている間に、ごく断片的に、人が本を読むのを聴いた。もにょもにょした独り言みたいのもあった。人は声に出しているわけではないのだが、それがほんの少し、イタチにはきこえるのだ。

ふと、さっきから疑問に思っていたことが、解けた気がした。イタチは思った──つまり、本を聴くことができるのは、要するにひとつの技術なのではないか。たぶん、人間はその技術を自分の中から切り離してしまったんじゃないだろうか?
space

0 件のコメント: