2008年10月31日金曜日
聖蹟桜ヶ丘
「本を読むときは、聴かないのですか?」
イタチがそう言ったのには、もちろんわけがあった。
人間は、っていうか生き物は、怠けるのが本性である。イタチもときどきグリーンエプロンをしてお店に立っていながら、そこいらへんのソファにごろりと横になり、手慣れた手つきでヘッドフォンを頭にかぶせて、やはり架空のチューナーをくるくる回しながら、好きな音を聴きたいものだと思うのだ。
だが、そんなことしなくたって、自然と耳に入ってくるものもある。
その日は、3人が店で本のページを繰っており、その一冊の中から、その一文だけが、すぐそばから聴こえてきた。
──土曜日になるとお父さんが本を買いに来る、病院に行ったおじいちゃんが帰りに店員と話していく、というような店です。
声は、ほんとうにすぐそばから聴こえた。イタチがハッとしてちょっとあたりを見回してしまったほどだ。
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