2008年10月2日木曜日

エラ・ハリ・エラ

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私と彼女は、何も最初から隣の会話に耳をそばだてていたってわけじゃないのだ。
「だろ? エラなんだよ」
「こっちも」
「そう」
それに、彼女──Judyという名だ──にいったいどれだけ通じていたか、私にはわからない。たぶん半分以下、というところじゃないだろうか。4割くらい。それでもまあ、確かに十分かもしれないという気はする。
「絵を仕事にするっていうのは結局……」
「エラが張るってことなんだなあ」
話しているのは、たぶん学生か、そうでなければ社会人になって1、2年という男たちだ。男たちの笑いはいよいよ止まらなくなっていった。
「この人もだよ」
「微妙に張ってるねえ」
「例外がないですね」
「よほどの覚悟で、張っちゃうんだろうねえ……」
「だねえ」

さすがにもう、Judyと私は元の話へ戻っていた。それに私は至極当たり前だが大事なことに気づき始めてさえいた。つまり、私の場合、ほとんどの日本人がそうであるように動詞がはっきりしない。そこが決まらないから、目的語が定まらない。がたがたになる。vagueだとJudyが言う。そしてたぶんリョーシカなら言うだろう。
「そういうはっきりしないことが言いたいんじゃないの?」
もしはっきりしたことが言えたなら、私もそういうことを望むかもしれない。

だけど要するに……と、一瞬、真空の時が流れて、男たちが笑い始めた。ほんとうに楽しそうに。何かにつまづいたら、こっちまで笑いが止まらなくなりそうだ。
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