2008年10月17日金曜日

トランペッターの雨やどり。

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ところで余談だが、そのあと音楽家がどうしたか、ちょっと書いておこう。

案の定、河原には時を待たず、ぽつり、ぽつり、と雨が落ちてきた。よくある通り雨だ。音楽家はたいして気にも留めなかった。要するに、なんとなく気分がよかったのだ。彼が吹くトランペットの音は、小さくさざめいている水面をていねいに渡っていった。向こう岸には、リトルリーグの子供たちが赤と白のユニフォームで練習試合をしていて、時折金属バットの打音が音楽家の耳にも届いていた。そばに電車の鉄橋があって、電車の音があっちからこっち、こっちからあっちへ通るときは、子供たちの野球チームが遠のいた。

そうしているうちに、音楽家はいつの間にか引き揚げるタイミングを逸していたのだ。雨は突然強くなり、見上げれば空はグレーの雲に覆われていて、とてもやみそうにはない。気がすすまないが、音楽家は鉄橋の下へ避難することにした。
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