2008年10月16日木曜日
イタチは、居眠りもする。
イタチは本を読みながら、つい眠ってしまった。つい眠ってしまうときというのは、どこかで眠っちゃってもいいや、と思っているときなのだ。
パカラカパッパパー
高らかな音に、イタチは目を覚まして、ぴょこんと跳ね起きた。びっくりしたのは、トランペットの練習をしようと、誰もいない河原へやってきた音楽家だった。
「これはどうも」
と音楽家は言った。ところで、よく見ると、音楽家はまるいおなかをしていた。トランペットを吹くための息を、そこにいっぱい溜めているのだろう、とイタチは思った。
「はあ、こんにちは」とイタチは言った。
「誰もいないと思ったもので」と音楽家は言った。
「そうですよね」とイタチは言った。「いや、でも、もうすぐ帰ろうと思っていたところなんです」
夕暮れにはまだ早い時刻だった。動物園に棲んでいればおやつの時間といったところだった。
「どうぞ、なにか吹いてください」とイタチは言った。「きりのいいところで、帰りますから」
音楽家はうなづいて、パラパラと軽やかに、音階を吹き始めた。
空にはもうイタチはいなかった。灰色の雲が川上から流れてきて、青空を塗りつぶしつつあった。
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