2008年9月27日土曜日

小ぶりな猫のあしあと

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少し前まで妹はオーストラリアに住んでいて、猫を飼っていた。より正確に言うと階下の家主が猫を飼っていて、その猫がいつも妹の部屋へ遊びに来ていたのだ。

だが、たまに遊びに来るというような関係ではなくて、猫はやはりそこに住んでいた。むしろごくたまに、妹が仕事に出かけているときなどに、こっそり里帰りするくらいのものだった。そのため、ごくたまにだが、猫はどうしているかと家主が訊きにくることもあった。

そういえば、今唐突に思いだしたのだが、その家主は犬も飼っていたのだった。それはとても血統のよいビーグル犬で、どうかすると鎖を離して自由にしてもらえるらしく、そういう時には階下で騒々しい音がしたかと思うと、一直線にのびる階段を一気に駆け上がってきて、サリサリ、ザリッ、ザリッ、という具合にノックするのである。

妹がドアを開けてやると、フローリングの床が滑るので体は斜めになり、まるで泳いでいるみたいにスローモーションになりながらも、ひたすら前へと進もうとする。部屋をだいたい3周ぐらい駆け回って、猫の食事台を見つけるとキャットフードをたいらげて、飛び跳ねたり、鳴いたりしながら、そのうちにしかと呼び戻されるので、ハッとして帰って行く。オーストラリアの家主は、犬も猫もたいへんかわいがっていた。

ある日、私が大学の図書館で暇をつぶしていて、本を借りようとカウンターまで行くと、カウンター越しにばったりと家主に出会った。何でこんなところにいるのかと言いそうになったが、思い直して差し障りのないことを一つ二つしゃべり、そして別れた。

妹は今でもたまにオーストラリアへ行くと、かつての家主を訪ねるのだそうだ。そして家主は今でも猫をかわいがってくれたことを感謝していると話すという。

猫の名はフィヤンマという。フィヤンマも元気だそうだ。
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